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東京高等裁判所 平成7年(行コ)36号 判決

静岡県浜松市佐鳴台四丁目四番二一号

控訴人

氏原定雄

同所同番号

控訴人

氏原やす

静岡県浜松市葵町三三八番の五

控訴人

氏原強

右控訴人ら三名訴訟代理人弁護士

石田享

静岡県浜松市元目町一二〇番地一

被控訴人

浜松西税務署長 神谷良夫

右指定代理人

湯川浩昭

張替昭吉

木村勝紀

小田嶋範幸

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  浜松税務署長が平成元年三月一三日付でした控訴人氏原定雄の昭和六〇年分所得税の更正のうち納付すべき税額三一三万七四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  浜松税務署長が平成元年三月一三日付でした控訴人氏原やすの昭和六〇年分所得税の更正のうち納付すべき税額六四万六八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

4  浜松税務署長が平成元年三月一三日付でした控訴人氏原強の昭和六〇年分所得税の更正のうち納付すべき税額六四万六八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項と同旨

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「第二 事案の概要」(原判決書三頁末行目から二七頁一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

一  原判決書四頁四行目の「争われた事案である」を「争われ、控訴人らにおいて、前記のとおり各昭和六〇年分所得税の更正処分のうちの申告税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の取消しを求める事案である」と、同六行目かっこ内の「証拠」を「証拠等」と、同七頁一〇行目の「岩石につき」から一一行目の「契約を締結した」までを「岩石を、昭和五五年一二月一日から一〇年間にわたり浜北砕石に譲渡する旨の契約を締結した」と、同八頁三行目の「原告は」から五行目の「その譲渡を受け」までを「控訴人らは、これより先、昭和五五年一一月頃、浜北砕石との間で、本件契約土地に埋蔵されている岩石を、昭和五五年一二月一日から昭和五六年一一月三〇日までの間、浜北砕石に譲渡し」とそれぞれ改め、同九頁六行目の「第一三号証」の次に「第二九号証、」を加え、同一一頁六行目「区分される」を「該当する」と、同九行目の「これに充当する」を「右売買代金に振替充当する」と、同一二頁一〇行目及び一一行目の各「区分されるのか」を「該当するのか」と、同二一頁二行目の「本件期間契約」を「本件基本契約」とそれぞれ改める。

二  原判決書二一頁三行目の「合意をしたものである。」の次に、改行して以下を加える。

「本件土地売買の経緯について言えば、本件土地購入は、浜北砕石の事業上の要請に基づくもので、浜北砕石からの買入れ申込みにより売買の話が持ち上がってきたものである。すなわち、浜北砕石は本件土地付近に調整池を作る必要があった。そこで、本件土地売買よりも一年位前から、浜北砕石の側から控訴人氏原定雄に対し、池を作るので本件土地を売ってほしいとの話が持ち込まれていた。それは、ちょうど、本件土地が、沢の水の落ちる所に該当し、そこに溜め池(沢の滝壺の落下する水を受け止める場所)を作らなければならなかったためである。浜北砕石からはその説明用に採石法や森林法関係の文書(甲第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし三)などが同控訴人に交付されてもいた。そして、本件土地は、売買後に現実に溜め池となり、「東側調整池」として図面に記載され利用されている。このように、本件土地は浜北砕石の側の必要によって売買が行われ、現に採石事業の上で必要な池(東側調整池)として治山治水の機能を果たしているのであって、控訴人らの側で浜北砕石に本件土地売買の話を持ちかけたものではなく、いわんや控訴人らにおいて雑所得課税の回避のために本件土地の売買契約の形式を仮装したなどという事実はない。」

第三争点に対する判断

一  争点(一)(本件収入金額)について

当裁判所も、控訴人らには昭和六〇年中において、原判決別表第3のC欄記載の各月分ごとに同表のⅠ欄記載のとおりの収入すべき岩石譲渡代金が生じ、その合計額が一八三五万円となると認めるのが相当であると判断する。その理由は、原判決書二七頁三行目から二九頁九行目までと同一であるから、これを引用する(ただし、原判決書二七頁四、五行目の「第一五号証」の次に「、第四四号証の一ないし四」を加え、同二九頁七行目の「同欄のⅠ欄」を「同表のⅠ欄」と改める。)。

二  争点(二)(本件収入は、岩石譲渡代金であるのか、本件土地の売買代金であるのか。)について

当裁判所も、原判決書二九頁一〇行目以下の「二 争点(二)について」掲示の証拠等によれば、本件土地の公簿面積は二五四平方メートルで、本件追加契約土地全体(原判決添付物件目録番号1ないし17)の公簿面積合計一万九五〇八平方メートルの約一・三パーセントに過ぎず、土中の岩石の価値を除けば本件土地の時価相当額は一〇万円前後に過ぎないものと認められ、一四五〇万円の売買金額は、本件土地の場所が浜北砕石の砕石場の将来の治山、治水、砂防等のための砂だまりや溜め池等をつくるために有用性があったにしても通常の合理性のある対価とは到底認めがたいし、浜北砕石としては昭和六〇年分の期間契約に基づいて同年中に支払った岩石譲渡代金と別個に本件土地代金を支払った形跡はないこと、逆に控訴人が主張するように本件土地の場所が沢の水の落ちるところに該当し、そこに溜め池を作る必要が生じたという本件土地そのものの場所的利益等の観点から売買代金が一四九五万円とされたとするならば、浜北砕石の側では別途本件追加契約土地全体において昭和六〇年中に採掘した岩石譲渡代金は支払わなければならない道理であるのに、それに関する取り決めがなく、むしろ本件土地売買代金に相当する額は別途岩石譲渡代金として支払わなくともよいとされていることは明らかに不合理であると認められること等に照らし、本件収入は、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金であると認められ、本件土地の売買代金とは考えられないと判断する。

その理由は、右に述べたほかは、原判決書二九頁一〇行目から同四〇頁四行目までと同一であるから、これを引用する(ただし、原判決書三〇頁五行目の「第一一号証」を「第一一、第一二号証」と改め、同六行目の「第三九号証の各一ないし三、」の次に「第四四号証の一、」を加え、同三四頁一〇、一一行目の「一万九五八〇八平方メートル」を「一万九五〇八平方メートル」と、同三六頁七行目の「本件売買契約」を「本件売買契約の締結」とそれぞれ訂正する。)。

三  争点(三)(本件収入は所得税法上の譲渡所得に該当するか。)について

当裁判所も、原判決において認定したとおり、控訴人らが本件契約土地や本件追加契約土地中の岩石を浜北砕石に譲渡するに至った経緯、本件岩石譲渡の期間と回数、代金額等から、もともと本件追加契約土地の大部分は控訴人らが先祖代々承継してきた土地であることを考慮に入れたとしても、本件岩石譲渡は「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当し、所得税法上の譲渡所得ではなく、雑所得に該当すると判断するのが相当であると認める。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決書四〇頁五行目から同五四頁三行目までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決書四〇頁九行目の二か所の「区分されるか」を「該当するか」と、同五四頁二行目の「区分される」を「該当する」とそれぞれ改める。

2  原判決書四一頁四、五行目の「明らかである。)。」の次に、以下を付加する。

「そして、譲渡所得に対する課税は、資産の長期にわたる保有期間中の所有者自身の意思によらない外的条件の変化に基因して逐年生じた資産の値上がりによる増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に課税されるものであり、その所得の発生形態が偶発的、不規則的なものであって回帰的でないところから、担税力を考慮して累進税率の緩和等の特別の措置がとられているものであって、逆に資産の譲渡による所得であっても、それが一時的、偶発的なものでなく、経済的利益追求の目的で継続的に行われていると認められる場合には、譲渡所得として一般の所得に比べて優遇する理由は存しないのであるから、譲渡所得に該当するか否かは、資産処分の形態、回数、金額、資産取得の経緯等を総合的に考慮して、その営利継続性の有無を判定すべきである。」

3  原判決書四八頁五行目「これらの事実を総合すると、」の次に、

「控訴人らの本件契約土地または本件追加契約土地における岩石譲渡は、所得税法上譲渡所得となることが予定されるような臨時的、偶発的なものとは到底言えず、少くとも昭和五五年一一月から本件で問題となっている昭和六〇年末までは、毎年、期間を一年として定めて締結された期間契約に基づき継続的に行われてきたことは明らかであり、」を加える。

四  本件課税処分の適否

そして、本件収入が雑所得に該当するとすると、控訴人らに対する本件課税処分はいずれも適法であると認められる。その理由は原判決書五四頁四行目から六二頁一〇行目までと同一であるから、これを引用する(ただし同五四頁五行目の「区分される」を「該当する」と改める。)。

第四結論

そうすると、本件控訴はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 田村洋三 裁判官 豊田建夫)

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